優しい灯り
+Hコラム
2022.10.22

インテリアを考えるときに「灯り」はとても大切だと思っています。

我が家はペンダント、スタンド、スポットライトなどで間接照明の灯りを楽しんでいます。白熱灯の温かみのある色が、落ち着いてとても好きなのですが、LEDが主流になりつつある今、だんだん減ってきているのは少し残念・・・

照明は一灯で部屋全体を明るくしてしまうより、間接照明の方が陰影ができ、部屋全体に奥行きが出てリラックスした空間が生まれます。

それは単に電気器具の照明だけにとどまりません。
日本ではなかなかキャンドルを楽しむ習慣は根付きませんが、随分前に初めて北欧を訪れた時、キャンドルやキャンドルホルダーが日常のさまざまなシーンに使われていたことやお店に豊富に並んでいることに刺激を受けました。

夏は白夜でなかなか暗くならない。
でも冬はあっという間に暗くなり長い夜を迎える。暗くなっても日本のようにパッと照明が灯るのではなく、キャンドルが少しずつ灯り、むしろ薄暗い優しい灯りの街並み。
レストランに入ってもテーブルひとつひとつにキャンドルが置いてあり、席に着くとお店の方が座ったテーブルのキャンドルに火を灯してくれる。
そして会話と食事を楽しむ。
もう何年も前初めて味わったこの感覚が好きで、事あるごとにあの街並みの雰囲気を味わいにまた行ってみたくなります。

でも、極寒の地での生活はそんなに優しいものではないという厳しい現実も現地に暮らす人から聞いたりします。
長くて暗く厳しい冬をいかに快適に過ごすか…そんな工夫が照明やキャンドルに現れたのだと思います。

だから北欧の照明は優れたデザインと機能が備わっているものが多く生まれ、素敵なデザインのキャンドルやキャンドルホルダーが受け継がれているのでしょう。

実際には北欧で体感する明るさは日本人には少し暗く感じるかも知れません。
それは目の色や生活習慣の違いから仕方のないことです。

照明については今では知識を持った方が増えました。お部屋のインテリアを考える時、全ての部屋を間接照明にするのはむしろ日本のライフスタイルに合わないようにも思います。
作業する空間、リラックスする空間などの目的に合わせて一灯や多灯を選んでいくのが日本のライフスタイルには合っているのかもしれません。

日本もまた冬に向かいます。
夜が長くなる季節にさまざまな灯りを楽しんでみたいです。

pluseitch

デンマークのヴィンテージランプ
photo satoshi nagare
teshigoto
+Hコラム
2021.10.16

手仕事で作られる作品が好きです。国は関係ありません。

同じデザインでもふたつとして同じものがないところに
とてつもない魅力を感じ、温かさとチカラを感じるからです。
でも自分では手仕事のもの作りはできません。
だから手を動かしてもの作りをする人たちをどんな分野でも尊敬してしまいます。

以前、北欧デンマークで、有名な陶磁器メーカーの工房で絵付けをされている方たちを訪ねた事がありました。
年齢は関係なく、皆さん思い思いに日が柔らかく差し込む自分のスペースで手を動かしてします。
「こんなに伝統あるブランドなのに割と自由な雰囲気のなかで作業をされるんだなぁ」と思ったのを覚えています。
何より、静かではあるが楽しそうに手を動かしているのが印象的でした。

そして、私の知る素晴らしい作品を作られる人たちも、作品ができるまでの過程では様々な苦労がありながらも
出来上がったら「楽しかった」と言っている方がほとんどだから不思議です。
ものを手仕事で作りあげるというのはそんなに簡単な事ではないし楽ではないはず。
でも最後に出てくる言葉は前向き。何ででしょう…。単純に好きだから?
それだけでは片付けられない、作る人にしかわからない魅力があるのだと思います。
だから作品にもそのパワーが入って、それが次に受け継がれる人へも伝わってくるのだと思います。

そして作ることができない私はそこに惹かれるのです。

pluseitch

遠方に住む友人家族が送ってくれた全て手作りのメッセージカード
遠方に住む大切な友人家族が送ってくれた作品

フィンランドの国花、初夏に咲くスズラン。フィンランド流お花をインテリアに取り入れるコツ
+Hコラム
2021.04.13

毎回pluseitchがお届けしている気まぐれコラム。
今回はフィンランド在住のライター、ラサネン優子さんが
フィンランドの国花スズランについて綴ってくださいました。

暗く寒い冬が長い北欧、フィンランドにも春の兆しが見え始める季節になってきました。
今年の冬は、首都ヘルシンキでもマイナス25度くらいまで下がる日があり、
例年以上に雪が降り積もり厳しい寒さでした。
バルト海も分厚く凍り、その上を散歩に出かけたり、スキーやスケートなど
ウィンタースポーツを楽しむ人々の姿も多く見られました。

ようやく雪が溶け始め、海の氷は緩み、森の中には心地の良い水の音が流れ、
鳥のさえずりも聞こえてきました。

フィンランドの国花、初夏に咲くスズラン
フィンランドの国花である、スズランの開花時期は、5月から7月頃。
フィンランドの湿地の森や、家の庭などに咲き、古くからフィンランド人にとって身近に存在する花です。
そして、初夏の訪れを感じさせてくれる花として広く親しまれています。

夏の屋外マーケットなどでも売られ、爽やかなグリーンと真っ白な花が涼しげで、
フィンランドの夏の風物詩です。

国花と言っても、国民の投票により、イメージとして決められたもので、
日本の桜と同様に、フィンランド人にとってスズランは大切な存在です。
国民に広く愛され、切手の絵柄やデザインのモチーフとしてもよく使われています。

初夏、サマーコテージに咲くスズラン

フィンランド流お花や植物をインテリアに取り入れるコツ
実際に家の中でスズランの花をどのように活けているかというと、それは至ってシンプル&ナチュラルです。
花器は圧倒的にクリアカラーが人気!
特に、スズランの爽やかなグリーンと清楚でピュアな白い花にはシンプルなガラスの花器がピッタリと合います。

ポイントは、凝った感じで活けるのではなく、あまり手を加えずに花本来の自然な雰囲気を残しつつ、
たっぷりの水を入れたクリアな花瓶にドボンと入れるのがフィンランド流。
透明感のある澄んだ水とクリアガラスから、スズランの生き生きとした茎も見ることができ、
涼しげな雰囲気を演出します。

また、スズランの花は湿気に弱く、風通しのよい場所に置くのが基本で、
小ぶりの花からは良い香りがふんわりと風に乗って広がり、
お部屋の中をほのかな柔らかい香りで包んでくれます。
見て楽しむだけではなく、フレグランスの役割も果たしてくれるのが魅力です。

広がりのある葉の間から、真っ白なコロコロとした花が
顔を出す

フラワーベースの曲線と葉の動きが相まって
躍動感が出る


夏には森で摘んだブルーベリーでパイを作り、
その横にそっとスズランの花が添えられる

フィンランドの人々は、自然本来の美しさを生かし、シンプルながらフィンランドの素敵なデザインをプラスして
インテリアコーディネートに取り入れ、心地の良い空間で暮らしています。

文・写真 ラサネン優子 Yuko Räsänen
2015年よりヘルシンキ在住。ライター・コーディネーター。
著書『デザインあふれる森の国 フィンランドへ』(イカロス出版)より発売中。YouTubeチャンネル『北欧フィンランド暮らし Moi Finland』にてヘルシンキの街歩きをはじめ、デザインや暮らしの風景を配信中。
コーディネーターとして企業視察や個人旅行など、フィンランド及びヨーロッパと日本をつなぐコミュニケーション全般に携わる。
ライターとして、フィンランドのライフスタイルや暮らしの様子などを日々発信している。

https://www.yukorasanen.fi

経年変化を楽しむ
+Hコラム
2021.03.07

我が家にある年代もデザインも違う椅子たち。
どれも日々使い、座り、大切に経年変化を楽しんでいるものばかりです。

あえて揃えない。
気が付くと北欧のデザインが多くなっていますが、日本、イタリア…新しいもの、ヴィンテージ・・
一脚ずつ違う座り心地を楽しむのも好きで、更に、それぞれ作られた背景を感じるのが面白い。

家族や友人と共に過ごす時も、お客さまを招いた時も、常に時間を共有しています。
最近は仕事場として座る椅子になったり。
(ただ、ダイニングチェアは長時間仕事で使うには適さないですね…)

一脚ずつ揃えて、使い、愛でて。
何にでも共通する事だと思いますがそうやって我が家の歴史のひとつになっていっています。

そのなかの古株の椅子が先日ついに修理が必要になりました。
椅子の構造的な話をすると、脚に「足貫」という脚を支えている部分があります。
そこが、外れてしまい、座るとだんだん脚が開いてきてしまう…。
私たち家族の重みに耐えられなくなってしまったのですね。
自分で直すことができないか試みましたがしばらくするとまた同じ症状が
出てしまう。

当時購入したところではもう扱われていないしどうしよう…
と思っていた矢先に修理をしてくれるところが見つかりました!

今回直すのは25年以上前に購入したイタリアのデザイナー、ヴィゴ・マジストレッティが
デザインしたDePadova社のマロッカチェア。
座面が比較的広く、少し曲線を帯びていてゆったり座れます。
どことなく都会的でないデザインにも惹かれました。葉山に越してくる前からの相棒です。

我が家にあるタイプは本国イタリアでも現在は製造されていないそうですが、流行りとかには関係なく、
家族と共に歩んできたものはこれからも直しながら大切に使って更なる経年変化を楽しみたいと思います。
plus-eitch

長年の相棒 マロッカチェア

季節を感じる
+Hコラム
2021.02.20

春を感じる花々が庭やお花屋さんで見かけるようになると選ぶのがますます楽しくなってきます。

大好きなチューリップやミモザ…庭では実家の庭から昨年お引越しをしてきた梅が少しずつ開花してくる様子が嬉しくて何度も眺めてしまいます。

葉山は自然豊かな場所でそれだけで日々癒されます。加えて気分を変えたい時やお部屋の雰囲気を少し変えたい時、季節の花々が少しあるだけで落ち着きます。

普段はあまり形式にとらわれず、自由にラフにお花が生き生きと見えるように生けるのが好きです。それだけで日々の空間に変化が生まれてきます。

そういえば、以前秋に訪れた北欧の街では蚤の市を開催している広場にテントを張り、たくさんの種類のお花を売っている市場がありました。オランダからのものが多いそうですが、アジサイもあったりして、意外にも色もカラフル。これから長く寒い冬に向かう前の季節をこの地域の人たちは明るい色の花々を部屋に取り入れて楽しんでいるのだなぁと感じたのを思い出しました。

お花を引き立てるフラワーベースは北欧のものや日本のもの。ガラス、陶器。シンプルでどんなお花とも相性の良いデザイン、手作りのものに惹かれます。サイズはつい大小色々集めがちですが、最近は日々の暮らしのなかで楽しむのにちょうど良いサイズがわかってきました。

ライフスタイルの変化を余儀なくされることがあっても常に普段通りで過ごせること。お花や植物の持つパワーに助けられていくことがこれから益々増えるのではないかな…と思いながら春のお花を楽しんでいます。plus-eitch

swedenの花市場

変わらないもの
+Hコラム
2021.02.03

日本は124年ぶりに2月2日が節分で、2月3日が立春という暦。春の訪れです。

そして2月3日は北欧フィンランドだけでなく世界的な建築家、デザイナー「アルヴァ・アアルト」のお誕生日。もちろん烏滸がましくも大好きで尊敬するデザイナーです。そこでふと目にとまった我が家にある2冊の図録があります。

久しぶりに開いてみると彼がデザインした建築はもちろん、家具や照明、ファブリックなど、私たちの日常生活のなかで長く使われて馴染み深いものもたくさんあります。

図録の1冊は葉山で開催された回顧展のもの。開催された時はひとりで、友人と…と鑑賞に行き、その都度違う想いで観ていました。有機的なフォルムの家具の世界観は一色海岸が見える近代美術館の窓からの風景と溶け込んでいて、つい時間を忘れて過ごしていました。普段はゆっくりと楽しめる大好きな美術館の駐車場が満車で並んでいる…。アアルトの人気ぶりの凄さ。そちらにもびっくりしていました。

そしてもう一冊の図録は更に昔、東京のセゾン美術館最後の展示で回顧展が開催された時のもの。この頃は今ほど日本はアアルトに向いていなかったようにも思います。その時の展示の館内は少し薄暗く、葉山のような開放感はなく、私が訪れた時は展示も最終日に近く、平日で人もまばらな館内。それでも偉大な建築家の、フィンランドという自然豊かな土地で生まれ、そこで使う人に目を向け、寄り添うデザインとそれを包む空間に圧巻されたのを覚えています。

更にそこから私の様々な「北欧」との出会いが始まっていきました。

あの時と今と。アアルトのデザインや作品は変わっていない。

でも時間が経過して、自分のライフスタイルも変化してきて、より深く、改めて良さを感じるようになった気がしています。そのデザインはもちろん、考え方にもますます素晴らしさや共感を覚えます。

とにかく使う人の立場を第一に、自然との調和を考えて、主張しすぎない…全てにおいて。それを20世紀の激動のなかで成し遂げ、今なお、色褪せないなんて…。

日本のライフスタイルにも合うデザイン。タイムレスなデザイン。そしてホッとするあたたかさ。これからも変わらず好きだと思います。

この一年ほどで暮らし方において変わらなくてはいけなかった事がたくさんありました。そのなかでいかに今まで通り自分らしく過ごせるかを考えていた日々でもありました。慣れてきたようで慣れなていないようで・・・。

変わらないものに触れて、改めて感じる変化。

また時期がきたらまだ一度も訪れていない娘も連れてフィンランドに行き、ゆっくりアアルトの建築や作品に触れられたら…と思っています。 plus-eitch

我が家にあるアルヴァ・アアルト展の2冊の図録。
上は2018年・下は1998年

動く彫刻~モビール~
+Hコラム
2020.12.06

モビール。「動く彫刻」と言われています。

わずかな空気の流れにも反応して動く様は、時間の流れをゆったりと感じさせてくれ、
慌ただしい日常をしばし忘れさせてくれます。

冬の寒さが厳しい北欧では家で過ごす時間をとても大切にすることはごく当たり前の習慣です。
そして、北欧の暮らしのなかにモビールがあたり前のように溶けこんでいるシーンもよく見かけます。


デンマークの紙のモビールやデザイン性の高いモビール、スウェーデンのフェルトのモビール、
スウェーデンからフィンランドに伝わった藁を素材とするヒンメリ・・。
知育玩具として、芸術作品として、クリスマスオーナメントとして飾られているもの・・。
それぞれの国で少しずつ素材やデザイン、意味合いは違っても、
伝統を重んじながら、現在も新しい作品が作り出されて、それぞれの空間で使われています。

日本でもインテリアコーディネートのアクセントとして、子ども部屋やリビングで
モビールが使われているのをよく見るようになりました。
モビールが空間にあるだけで、お部屋の印象が変化し、遊び心が増します。
季節毎に変えたり、気分で変えたりしても楽しいアートです。

今年は家で過ごす時間が増えました。
仕事もプライベートも同じ空間は、移動時間がない分、気分転換をする工夫もあると過ごしやすいですね。
様々に変化する「動く彫刻」を時々眺めて、onとoffの切り替えをしてみてはいかがでしょうか。  

我が家にあるオーレ・フレンステッドがデザインしたデンマークのモビール
我が家にあるオーレ・フレンステッドがデザインしたデンマークのモビール

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葉山に暮らす
+Hコラム
2020.11.17

葉山に暮らすようになり、不便だけど暮らし続けているのはなぜだろう…と、ふと考えることがあります。

実家は横浜。葉山から車でさほど時間がかからず行ける距離にあり、横浜といってもはずれのほう…。
なのでこの辺りは横浜に越してきた頃から家族で訪れたりしていて、何となく馴染みがありました。

葉山暮らしがスタートしても、はじめの何年かは都内まで片道約2時間をかけて通勤し、
終電で帰宅することも少なくなかった日々。

子育てを通して、ようやく地元の温かな人たちとの関わりや葉山の奥深さがわかってきました。

そして、ここでの暮らしの変化のなかでも変わらず、あたりまえのように
「一色海岸」に訪れていることにも気付かされます。

子どもが初めて目にした海

誰もいない冬

夏の朝ヨガ

晴れた日の家族で散歩をするときのルート

買い物のついで

美術館の帰り道…

日々の何気ない生活のなかにこの場所があります。
華やかでなく、できるだけ人がいない時間と時期に訪れて波音を聞く。
ただただ落ち着く。

これが、不便だけど葉山に暮らす一番の理由なのかも知れません。

もちろん、富士山が望めること、以前「CNNが選ぶ世界のビーチ100」のなかに
選ばれた美しいビーチであること・・
目に見える美しさはもちろんありますが、それだけではないチカラがあります。

海岸までの風景に四季を感じながら歩けるのも、葉山でも山の方に住む者の特権と思っています!

葉山暮らしのなかでの発見、これからも楽しみたいと思います。

写真家 安彦幸枝さんに撮影していただいた一色海岸へ続くこみち

plus-eitch